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チラ裏
2021-02-25 メルカトルの地図とウォリスの級数 大航海時代の「アナログGPS」
y = sec x の積分は、今では「面倒なだけの計算問題」だが、大航海時代には人命に関わる重大問題だった。
sec x = 1 / cos x = cos x / cos2 x ………①
= cos x / (1 − sin2 x) ………②
= cos x / [(1 + sin x)(1 − sin x)] ………③
①で分母分子に cos x を掛けているのは、2乗を作って②から③の形にして、部分分数分解へ持ち込むため。ここまでは普通の式変形だが、ここからは、英国の John Wallis が1685年に発表した面白い計算法を紹介したい。
x が 0 以上 π/2 未満という条件を付ける。②が絶対値1未満の正の数であることに注意する。等比級数の公式によると:
|a| < 1 ならば 1 + a + a2 + a3 + … = 1 / (1 − a) ………④
a = sin2 x と置くと 1 / (1 − sin2 x) = 1 / (1 − a) となり、②は [1 / (1 − a)] cos x。④を逆向きに適用すると:
sec x = [1 / (1 − a)] cos x = (1 + a + a2 + a3 + …) cos x
= [1 + (sin2 x) + (sin2 x)2 + (sin2 x)3 + …] cos x
= cos x + sin2 x cos x + sin4 x cos x + sin6 x cos x + … ………⑤
暗算できる簡単な微分 (sin x)′ = cos x, (sin3 x)′ = 3 sin2 x cos x, (sin5 x)′ = 5 sin4 x cos x, (sin7 x)′ = 7 sin6 x cos x, … を逆向きに使うと、⑤を容易に積分できる:
∫ sec x dx = sin x + sin3 x / 3 + sin5 x / 5 + sin7 x / 7 + … + C
C は積分定数。積分区間を x=0 から x=θ までとすると(0 ≤ θ < π/2):
F(θ) = ∫0θ sec x dx = sin θ + (sin3 θ) / 3 + (sin5 θ) / 5 + (sin7 θ) / 7 + …
何ときれいな式でしょう!
<例1> θ = π/6 とすると sin θ = 1/2。大ざっぱな話として、最初の3項だけを考えると:
F(π/6) ≈ 1/2 + (1/2)3 / 3 + (1/2)5 / 5 = 263/480 = 0.547…
原始関数経由で描いたグラフ(図の赤い曲線。青い曲線は y = sec θ)と見比べると、確かに横座標が θ = π/6 のとき、赤い曲線の縦座標は 0.5 くらいに見える。ちなみに正確な値は 0.54930…。
π/6 = 0.523… なので、メルカトル図法の地図では、赤道(θ = 0)から北緯30°(θ = π/6)までの長さが、正しい縮尺より5%くらい長めになる。角度を正確に表示するため、距離表示の正確さを犠牲にした。でも、上記の積分で航路の長さを補正すれば、船乗りたちは迷子にならず、正しい航海計画を立てられる。sec とその積分は、大航海時代の「手で計算するGPS」だった。
<例2> グラフの横軸 5π/12 において、赤い曲線の縦座標がちょうど2くらい(2より微妙に上)なのが目を引く。θ = 5π/12 とすると s = sin θ = 1/(√6 − √2) であり:
F(5π/12) ≈ s + s3/3 + s5/5 + s7/7 = 1.546…
いかん、約2になるはずなのに、収束が遅そうだ!
s + s3/3 + s5/5 + s7/7 + s9/9 = 1.627…
s + s3/3 + s5/5 + … + s11/11 = 1.689…
早送りしましょう。
s + s3/3 + s5/5 + … + s25/25 = 1.897…
25乗まで足しても収束する気配がない。
s + s3/3 + s5/5 + … + s53/53 = 1.998…
s + s3/3 + s5/5 + … + s55/55 = 2.001…
とりあえず、2を超えたが、先は長そう。
s + s3/3 + s5/5 + … + s101/101 = 2.02425…
s + s3/3 + s5/5 + … + s201/201 = 2.02753…
s + s3/3 + s5/5 + … + s301/301 = 2.02758…
s + s3/3 + s5/5 + … + s401/401 = 2.02758…
さすがの John Wallis も401乗までは足さなかっただろう。③を真面目に積分した方が手っ取り早いのだが、これはこれで楽しい。効率はともかく、sinの表だけ持ってれば手動で計算できるので、当時の人にとっても便利だったのかもしれない。
上記の値を 5π/12 = 1.30899… と比べると、メルカトル図法の赤道→北緯75°(θ = 5π/12)は、約1.55倍に表示される(正しい縮尺より5割以上長い)。北緯75°地点での「地図上の拡大率」は、sec θ = √6 + √2 = 3.86…。グラフの青線からも 3.9 に近いことが読み取れる。この高緯度では長さが約4倍に誇張され、赤道から通算した「平均拡大率」だと約1.55倍。ちゃんと補正しないと、まともな旅行計画が立てられないものの、「メルカトル・ナビ」は、目的地への正確な方向を示してくれる(原理的には)。GPSの電波を受信する代わりに、方位磁針で地球の磁場を受信しながら、船乗りたちは大海原を進んでいった。星座の位置を調べて、現在位置を確認しつつ…。現代の航法から見ると原始的だが、ロマンチックな感じもする。
この種の世界地図ではグリーンランドが巨大に見えるが、「北海道は大きい」というイメージにも、部分的には、緯度が高いことによる「地図上の拡大効果」が関係しているのかもしれない(本当に大きいけれど、メルカトル図法では、大きさがさらに誇張される)。
参考文献: Tuchinsky (1978), Mercator’s World Map and the Calculus, 第5節
2021-02-24 船乗りのロマン メルカトル図法とセックたん
多くの方は、メルカトルが、新しい種類の地図を考えたことをご存じだろう。「行きたい場所が、現在地から見て地図上で x° の方角なら、方位磁針を使って x° の方角に単純に真っすぐ進めばいい」…メルカトル図法は、この単純で便利な性質を持つ。
メルカトル図法には sec x と ∫ sec x dx が絡んでくるのだが、当時の人々は、まだ微積分が発見されてないのに、この計算をやっていた! それだけでも興味深い。
∫ sec x dx なんて、大抵の人にとって「無味乾燥な計算問題」だろうが、その裏にはドラマがあった。地図上の方向・計算上の距離と、実際の方向・距離がずれてたら、海上で迷子になったり食糧が足りなくなったりして、生死に関わる。この積分には、船乗りの命が懸かっていた…。
そのことを読み物として、まとめたものがこちら:
An Application of Geography to Mathematics:
History of the Integral of the Secant
https://www.maa.org/sites/default/files/0025570x15087.di021115.02p0115x.pdf
どうして sec が関係するのか、簡単な図解を交えて、4ページ少々で紹介。当時の雰囲気・歴史的コンテキストを垣間見ることができ、結構ワクワクする。∫ sec x dx に愛着が湧く。
好奇心を感じた方は、上記を拡充した次の文献もどうぞ。
ERIC ED214787: UMAP Modules-Units 203-211, 215-216, 231-232.
PDF版 https://archive.org/download/ERIC_ED214787/ERIC_ED214787.pdf
DjVu版 https://archive.org/download/ERIC_ED214787/ERIC_ED214787.djvu
スキャンの53ページ目(※冊子に印刷されているページ番号ではない)から Mercator’s World Map and the Calculus というテキストがあって、約20ページにわたって、多くの図を交えて丁寧な説明がなされている。
なぜメルカトル図法が船乗りにとって便利なのか。一定間隔の緯度を地図上ではだんだん広くなるように描かなければならない理由。その拡大率が緯度 φ に対して sec φ になる理由。水平方向の幅もそれに比例して拡大しなければならない理由(だからグリーンランドが地図上でやけに大きく見える)。この地図上での距離は、sec の積分になること。何種類かの計算方法。簡単に、それを級数でも表現できること。
あいにく2番目の資料はノイズが多く、スキャンがぶれていて読みにくい箇所がある(1番目の資料は鮮明)。
「超お薦め」というほどではないが、興味を感じたら、のぞいてみてください。少なくとも、機械的に計算法だけ暗記するより、モチベーションが湧くでしょう。「級数で表現」の部分は特に面白いので、次回このコーナーで紹介しますね!
2021-02-22 Vorbis注意報・補足説明 Vorbis/Opus自体に問題なし
動画を一般公開する場合、Vorbis/Opus音声はリスキーであることをお伝えしました(2021-02-21のメモ)。悪いのは Vorbis ではなく VLC です。誤解のないよう、もう一度説明します。
VLC media player という特定のプレーヤーに、再生の不具合(再生側の問題)があります。Vorbis 自体(作成側・データ側)の問題ではありません。
上記のプレーヤーを使わない限り、自分用として、あるいは仲間内で、Vorbis音声やOpus音声の動画を作るのは、全く問題ありません。
一般公開する動画の場合、ダウンロードした人がどのプレーヤーを使うか分からず、もしVLCユーザーがその動画を再生しようとすると、不具合が起きる可能性が高いです。「本当は冒頭部分にも音声があるのに、映像だけが再生され音が鳴らない状態が約1秒、続く」という不具合。もともと冒頭の数秒が無音なら実害ないですが、一般的には大問題。
だから、不特定の人が再生する可能性がある動画に関しては、VLCの不具合が解決するまでの間、Vorbis/Opus を避けた方がいい。そのうちバグが修正され、ほぼ全ユーザーが修正済みバージョンに乗り換えた状態になれば、再び Vorbis 等を安心して使えますし、今現在でも「公開用ではなく、自分用に作る動画」には、安心して Vorbis 音声を使ってください。
別の角度から言うと、VLCユーザーは、他のプレーヤーへの乗り換えをご検討ください(少なくとも、この重大バグの原因が分かり、問題が解決するまでの間)。
2021-02-21 【動画作成】注意報 Vorbis/Opus音声はリスキー 直してほしいVLCのバグ
VLC の3年前(2018年)のバグ #20927 が依然未解決なので、一般公開する動画の音声に Vorbis/Opus を使わない方がいい。
これはとても残念なこと。特許で縛られている AAC より、フリーの Vorbis/Opus を使いたい。Opus には音質的メリットもあるし、Vorbis はある意味において「日本の誇り」でもある(aoTuV)。…けれど、冒頭の数秒が鳴らないのは、実用上、問題がでか過ぎる。
音声が Opus でも再現すること、現行バージョンの 3.0.x でも再現することを複数の環境で確認したため、催促のコメントを追加しておいた。どうなることやら…
OGM時代(いつの話だ…笑)から Vorbis 音声の動画を布教してきた私たちが、ここにきて AAC を推奨しなければならないのは悲しいが、鳴らないのでは話にならない…。早期解決を祈るのみ。
2021-02-21 幾何学的アプローチの長所と短所
指数関数の定義として、教科書的には次の形が代表的だろう。数学オタクにとっては当たり前の見慣れた式だが、普通の人にとっては「理解不能」に近い怖い形かもしれない。
この他、無限級数を使った定義もよく見掛けるし、「微分して自分自身になる関数」という特徴付けを定義にすることもできるだろうが…。多くの人にとって、e は、訳の分からない数。使っているうちに何となくその性質・重要性がのみ込めてきて、やがて慣れてしまい「そういうものだ」と疑問を抱かなくなる。π にも、そういう面があるかもしれない。
それでいいのだろうか? 数学とは論理と直観のはず。「慣れれば分かる」などという、あやふやなことでいいわけない!
訳の分からないものを天下り的に導入して「使ってればそのうち分かるから」とか「とにかく公式を暗記しろ」とかいうアプローチでは、数学が「暗記科目」と誤解され、嫌われる原因になる。
一方、逆数のグラフの曲線の下の面積を考えることで、具体的に目に見える形で e を導入することは難しくない。対数の性質を「面積の足し算」として直観的に納得したり、e の値を自力で計算したり、幾何学的定義が「極限を使った普通の定義」と同値であることを確かめたりすることは、有意義だろう。
シェルバトフの薄い本を読んで、強い感銘を受けたが、同時に短所もあると感じた。第一に、幾何学的証明にありがちなことだが「確かにそうなる。でも、その巧妙な作図をどうやって思い付けばいいのか」。…天下り的な定義がない半面、天下り的な作図がある。第二に、数学的に厳密でない点。第三に「計算は正しいが、そのやり方は野暮ったい」という部分。第二・第三は「一般向けの啓蒙書」という性質上(きっちりした数学の専門書ではない)、当然かもしれない。むしろ「エレガント過ぎる」教科書より、多少泥くさくても実直・丁寧な方が、一般読者にはありがたい。
対数関数に関する限り、第一の問題はない。自然な作図、自然な問題意識から、スムーズに議論を展開できる。
幾何・解析のどちらにも長所があるのだから、両方のやり方をうまくミックスすれば、分かりやすく魅力的になる。今の普通のやり方は、何から何までやたらと解析的過ぎる。幾何学的方法をメインに、同じことを再構築するのは、何より自分自身の勉強になるし、興味ある読者にとって、何かの参考になるかもしれない。ただ…上記の第二の問題点は根深い。双曲回転が面積を保存することは、直観的には明らかだが、厳密に考えると面積の定義・積分の定義に依存することだろう。そうすると「幾何学的アプローチ」は、幾何のベールをまとった解析にすぎない。「フォーマルで厳密な数学」ではなく「それを直観的に理解するための、インフォーマルな作図」…というのがその本質かもしれない。
幾何学的アプローチだと、複素変数を考えることが(不可能ではないにせよ)困難。どっちにしても、どこかで解析にスイッチするしかない。でも、インフォーマルな「理解の補助」としても、同じ事柄を別方向から眺めて理解を深める点でも、幾何学的アプローチは、効果抜群だと思われる。
「チラ裏」は、きちんとまとまった記事ではなく、断片的なメモです。
Map
の長所、splice
より速い要素挿入法も紹介。 〔最終更新: 2016年4月10日〕bdi
要素と Unicode 6.3 の新しい双方向アルゴリズム (2012-12-04)dir
属性は落とし穴が多い。HTML5 の <bdi>
は役立つ。近い将来、「ユーザー入力欄などの語句は、このタグで隔離」が常識になるかも。 〔最終更新: 2014年4月27日〕fad()
は濁りやすい。各種の代替手段を紹介。msystem.waw.pl
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