7 : 22 オイラーの公式の直接証明

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曇りなきオイラーの公式 微分を使わない直接証明

2019年 2月17日
記事ID e90217a

exp ix = cos xi sin x のこんな証明。目からうろこが落ちまくる!

ハンガリー系(?)の数学者マーテーによるもの。この分野に詳しい人にとっては、何でもないのかも。筆者にとっては、微分を使わずオイラーの公式を証明できるということ自体、驚きだった。


オイラーの公式 eix = cos x + i sin x普通の証明は、もやもやする。

もやもや1 虚数乗って何? いきなり eix を持ち出して「納得しろ」と言われても…。この公式に付き物の「神秘的」という形容も、くせもの。「これは神秘なのです」と受け入れを迫るのは、もはや宗教。

もやもや2 複素関数の微分を導入していないのに、暗黙にそれを使うこと。例えば、実変数関数から作った級数に、素知らぬ顔で複素数を入れること(特に、その級数が関数の定義ではない場合)。暗黙に「複素関数として考えても導関数は同じ」と言ってる。「後で複素解析を学べば納得できます」=「今は証明なしにこの操作を信じろ」と。数学は「信じるもの」じゃないよ…。

改善案 もやもや1については、何らかの方法で複素関数 exp z を定義し、関数値が指数法則に従うことを証明し、「exp zez とも書く」ということの意味を明らかにすれば、納得がいく。もやもや2については、先に複素関数の微分を導入するか、または微分を使わないで証明するかだが…。現実的に、微分を使わずオイラーの公式を証明できるのだろうか?

答えはイエス。ニューヨーク市立大学(CUNY)ブルックリン校の Attila Máté(アッティラ・マーテー)は「微分も級数も使わないオイラーの公式の証明」を公開している。意外と短い(本体は約12ステップ)。そして繊細(単純な命題を丁寧に積み上げる)。以下、その全ステップを検討したい。ちなみに、微分を使っていいなら証明は簡単

  1. §1 オイラーの公式の直接証明
  2. §2 命題1の証明
  3. §3 命題2(ド・モアブルの定理)の証明
  4. §4 命題3の証明
  5. 付録 オイラーの公式の別証明/怪しい挟み撃ち/命題6の直観的説明/極限値の定義と性質

§1 オイラーの公式の直接証明

定義 任意の複素数 z に対して、複素指数関数 exp z の値は次の通り。

lim極限値を表す。以下では z が純虚数の場合を扱う。一般の複素数に対してこの極限値が存在すること・指数の性質を持つことなどについては、別途確認する必要がある。

指数関数をこう定義するとき、次の3つの命題を使ってオイラー (Euler) の公式を証明できる。sin, cos三角関数

命題1 θ を実数とすると:

命題2(ド・モアブル (de Moivre) の定理) 任意の実数 x と任意の正の整数 n について:

命題3 n を正の整数とする。複素数値の関数 f(n) lim n → ∞  nf(n) = 0 を満たすとき:

命題3の一つの解釈: n→∞ のとき f(n) が十分速く 0 に近づくなら、それは「実質的に 0 と同じ」で、極限値は (1 + 0) = 1 = 1。対照的に、指数関数の定義の分数部分を f(n) = z/n と置くと、それは(z ≠ 0 なら)十分速く 0 に近づかず、「実質的に 0 と同じ」ではない。例えば z = 1 のとき、(1 + 0) の形の極限値は e = 2.718… になる。違いとして、命題3では nf(n) → 0 だが、指数関数の定義では nf(n) = z のまま。

a = f(n) は、複素数の列 (an) に当たる。ここでは、これを単に関数として扱う。


最初に「これらが成り立てばオイラーの公式が成り立つ」ことを示し、その後で命題1~命題3を証明する。

証明の本体

θ を実数とする。命題1から:

(A.1)1 − (sin θ)/θ の極限値。(A.2) の分数については、分子・分母に 1 + cos θ を掛けると、分子は (1 − cos θ)(1 + cos θ) = 1 − cos2 θ = sin2 θ になり(理由)、分母は θ(1 + cos θ) になる。つまり、もともとの分数は、2個の分数 A = (sin θ)/θ, B = (sin θ)/(1 + cos θ) の積に等しい。B の極限値は 0/(1 + 1) = 0

(A.1) の両辺を i 倍すると:

複素数が絡む場合でも「式の極限値の定数倍は、式の定数倍の極限値」(理由)。

(A.2)(A.3) の分数の和を考えると:

式の値が複素数の場合でも、このように「和の極限」は「極限の和」となる(理由)。

0 以外の任意の実数 x を選んで固定し、(A.4)θ の代わりに x n を考える。ここで n正の整数θ → 0 つまり x n  → 0n → ∞ を意味する:

両辺を x 倍すると(してもいい):

直接計算すると、x = 0 のときも (A.6) は成立。従って、これ以降 x ≠ 0 という制限をなくし、x任意の実数とする。

α = cos  x n  + i sin  x n , β = 1 +  ix n と置くと、(A.6) は:

cos2  x n  + sin2  x n = 1 なので(理由)、複素数 α の絶対値は 1α ≠ 0 なので、(A.6*) の両辺を α で割ることができる(理由):

f(n) = β α  − 1 と置くと (A.7) は:

このとき、命題3から:

1 + f(n) = β α α 倍を考えると:

(A.10) の左端と右端をそれぞれ n 乗して(※注1)命題2(ド・モアブルの定理)を使うと:

n→∞ のとき、(A.11) の左端は exp (ix) の定義、右端の因子 [1 + f(n)]n の極限値は (A.9) より 1。すなわち:

証明終わり □


(A.6)1 + ix/ncos (x/n) + i sin (x/n) を比較する形(理想的には「両者は等しい」という式)に持ち込めれば、それぞれ n 乗して「指数関数の定義 vs. ド・モアブル」。(A.10) によると「両者は等しい」わけではないが、等しくないようにしている因子 [1 + f(n)] は、 乗の極限では「ないのと同じ」。f(n) → 0 だけでは「ないのと同じ」とは言えず、(A.8) を示すことで、命題3を発動できる。

どこにも穴はないようだ。オイラーの公式って、微分を使わず12ステップで証明できたんだ!!

※注1 (A.10) の右端の式は、α = cos (x/n) + i sin (x/n)γ = 1 + f(n) の積。その n(αγ)n は、αγn 回掛け合わせたものなので、乗法の交換法則から αnγn に等しい。

付記 単位円を使って三角関数を幾何学的に定義する場合、任意の実数 φ に対して cos2 φ + sin2 φ = 1 が(従って 1 − cos2 φ = sin2 φ が)成り立つ理由は次の通り。φ が直角の整数倍であれば、cos φ = ±1, sin φ = 0 または cos φ = 0, sin φ = ±1 なので、与式は自明。それ以外の場合、(0, 0), (cos φ, 0), (cos φ, sin φ) の3点を頂点とする直角三角形の辺の長さについて、三平方の定理を適用すればいい。

§2 命題1の証明

命題1 θ を実数とすると:

有名な命題だが、穴のない証明は意外と難しい。

級数を使って三角関数を定義する場合、命題1はロピタル (l’Hôpital) の定理から明白(その場合、三角関数の微分は級数の項別微分なので、循環論法にはならない)。単位円を使って幾何学的に三角関数を定義する場合(そして命題1を使って三角関数の導関数を得る場合)、ここでロピタルの定理を使うと循環論法になる。そのため、一般的には幾何学的証明(いわゆる挟み撃ち)が行われる。面積の挟み撃ちは説明として分かりやすいが、別の循環論法を含む。

示すべきこと 極限値の定義によると、命題1を示すためには、「任意の正の数 ε に対して、次の性質を持つ正の数 δ が存在する」ことを言えばいい。

証明 原点 O を中心とする単位円上で、2点 P (1, 0), Q (cos θ, sin θ) を考える。θ = ∠POQ0 より大きく直角以下と仮定する。Q から x-軸上に下ろした垂線の足を R (cos θ, 0) とする。弧 PQ 上に、P とも Q とも異なる点 P1 を取り、そこから PR 上に下ろした垂線の足を X1 とし、P1 から RQ 上に下ろした垂線の足を Y1 とする。

画像 sinx_over_x.png: 内容は本文に記されている 円周上の2点を結ぶ線分をという。R が弦 PQ 上にないことは容易に示される。2点間を結ぶ最短経路は直線なので、弦 PQ の長さは、L字路の長さ | PR | + | RQ | より短い。同様に、弦 PP1 は、対応するL字路 L0 = | PX1 | + | X1P1 | より短いし、弦 P1Q は、対応するL字路 L1 = | P1Y1 | + | Y1Q | より短い。L0, L1 の和は、最初の大きなL字路の長さ L = | PR | + | RQ | に等しい。

一般に、弧 PQ 上に相異なる点 P1, P2, …, Pn−1 をこの順序に取って弧を n 個に分割した場合(n ≥ 2)、一つ一つの「弧の区間」に対応する弦は、対応するL字路(上記同様に定義される)より短く、しかも全部のL字路の長さを合計すると、常に L に等しい。弧の長さとは、このような分割で生じ得る「n 個の弦」の長さの総和(つまり「弧に内接する折れ線」の長さ)の上限である、と定義しよう(n の値と分割点の位置は自由に選んでいい)。どのように折れ線を設定してもその長さは L 未満なので、弧の長さが L を超えることはない(※注2)。弧度法の定義から、弧 PQ の長さは θ なので:

  1. θ ≤ (1 − cos θ) + sin θ
  2. 1 ≤  1 − cos θ θ  +  sin θ θ
  3. 1 −  1 − cos θ θ  ≤  sin θ θ  ……… (B.1)

θ について「0 より大きく直角以下」と仮定しているので、正弦 RQ の長さは 0 より大きい。ピタゴラス (Πυθαγόρας) の定理により、正弦 RQ よりも弦 PQ の方が長いが、2点間を結ぶ最短経路は直線なので、弧 PQ はさらに長い(※注3):

  1. 0 < sin θ < θ
  2. 0 <  sin θ θ  < 1 ……… (B.2)

※注2 折れ線の長さはどれも L 未満だが、それらの上限は L に等しい可能性がある。「弧の長さ(つまりこの上限)が L 未満」と言い切るためには「折れ線の長さの集合には、L より小さい上界が存在する」ことを示さなければならない。そこまでする必要はない。

※注3 弧 PQ と弦 PQ が異なること(直観的には当たり前)は、容易に示される。実際、O から弦に垂線を引くと、この垂線は円の半径 OP より短い(ピタゴラスの定理)。ゆえに、弦には円周上にない点が含まれる。

さて、θ の範囲に関する仮定から θ > 0, 1 − cos θ > 0, 1 + cos θ ≥ 1 なので:

最後の不等号は (B.2) による。(B.3)−1 倍すると、不等号の向きが変わり:

その両辺に 1 を足して (B.1) と組み合わせると:

これを (B.2) と組み合わせると:

(B.4) の1個目の不等号は 1 − (sin θ)/θ < θ を含意。(B.4) の2個目の不等号は 0 < 1 − (sin θ)/θ を含意。つまり:

ところで θ が負の直角以上 0 未満の場合についても、一部符号が変わる以外、上記の議論がそのまま成り立ち、最終的には次を得る:

(B.5) では θ が正、(B.5*) では θ が負であることに注意すると、両者をまとめてこう書ける:

  1. 0 < 1 − (sin θ)/θ < | θ |
  2. 0  <  | (sin θ)/θ − 1 |  <  | θ | ……… (B.6)

今、任意の正の数 ε が与えられたとき、δ = ε と置くと、もし θ が不等式 (B.6) の有効範囲にあるなら、次が成り立つ:

大筋においては、これが示すべきことだった。

この証明では「θ の絶対値は直角以下」と仮定している。θ がそれより大きい場合にどうなるか、(B.6) からは何も分からない。けれど θ が直角の場合には弦 PQ の長さが 2 なので、弧の長さについて θ > √2 が成立(これは、直角をラジアン単位で表した値についての評価)。すなわち、θ の絶対値が約 1.4 以下なら角度の絶対値は直角未満で、(B.7) は確実に有効。従って、任意の正の数 ε が与えられたとき、ε > 1 なら δ = 1 とすれば (B.7) から

となり、そうでなければ δ = ε とすれば (B.7) が直接成り立つ。つまり、条件を満たす δ は必ず存在する

証明終わり □


この証明の骨格も Attila Máté による。弧が弦より長いことは、ほぼ明らか。弧の長さがL字路の長さ以下であることを言えば、挟み撃ち成立。L字路は「弧に外接する長方形の2辺」なので、直観的には弧より長いはず。それをきちんと示すため、弧の長さの意味を明示している。

実際に試してみると…。証明済みの 0 < | θ | < δ の範囲はもちろんだが、θ = δ としても、要求より誤差が小さい。ε が小さくなればなるほど、ますます余裕で要求をクリア。

ε = 1.0, δ = 1.0
θ = 1.0 : |(sin θ)/θ - 1| = 0.15...
θ = 0.9 : |(sin θ)/θ - 1| = 0.12...
θ = 0.8 : |(sin θ)/θ - 1| = 0.10...
θ = 0.7 : |(sin θ)/θ - 1| = 0.07...

ε = 0.5, δ = 0.5
θ = 0.5 : |(sin θ)/θ - 1| = 0.04...

ε = 0.1, δ = 0.1
θ = 0.1 : |(sin θ)/θ - 1| = 0.001...

ε = 1/100 ← 要求精度(誤差がこれを超えちゃ駄目)
θ = 1/100 : |(sin θ)/θ - 1| = 約6万分の1 ← 実績(めちゃくちゃ誤差が小さい)

ε = 1/1000
θ = 1/1000 : |(sin θ)/θ - 1| = 約600万分の1

ε = 1/10000
θ = 1/1000 : |(sin θ)/θ - 1| = 約6億分の1

それもそのはず、ε = 0 付近では sin ε ≈ ε − ε3/6 になる| (sin ε)/ε − 1 | ≈ ε2/6ε = 1/100 なら右辺は (1/100)2/6 = 1/60000ε が1桁小さくなるごとに、2桁小さくなる。

f(θ) = sin θ θ のグラフは次の通り(sinc 関数)。関数値 f(0) は定義されないが、θ→0 のときの f(θ) の極限値が 1 であることは、ほぼ一目瞭然。

sinc関数のグラフ: 左右対称。中心に幅のやや狭い山。ピーク値1.0。左右に小さい谷・小さい山・もっと小さい谷・もっと小さい山…が等間隔で並ぶ。原点から遠ざかるほど振幅が減衰。

§3 命題2(ド・モアブルの定理)の証明

命題2 任意の実数 x と任意の正の整数 n について:

証明 帰納法による。(C.1) は、n = 1 に対しては自明。(C.1)n に対して成り立つ、と仮定すると:

この右辺を展開し、実部・虚部に分けると:

(実変数の)三角関数の加法定理を使うと:

すなわち、(C.1)n + 1 に対しても成り立つ。

証明終わり □

§4 命題3の証明

命題3 n を正の整数とする。複素数値の関数 f(n) lim n → ∞  nf(n) = 0 を満たすとき:

この命題は、次の命題4~命題6に依存する。

命題3の証明の準備

命題4(ベルヌーイ*1 (Bernoulli) 不等式) k ≥ 0 を整数、x > −1 を実数とすると:

*1 フランス語風の呼び方。ドイツ語風は「ベルヌリ」。

証明 帰納法による。k = 0 なら自明。命題が k について成り立つと仮定すると:

  1. (1 + x)k+1 = (1 + x)k(1 + x) ≥ (1 + kx)(1 + x)
  2. = 1 + (k + 1)xkx2 ≥ 1 + (k + 1)x

すなわち、命題は k + 1 についても成り立つ。 □

命題5 k ≥ 0 が整数で、実数 x−1 < x < 1 を満たすとき:

証明 x2 ≥ 0 なので 1 − x2 ≤ 1。つまり:

仮定より 1 − x > 0。上記の両辺を正の数 1 − x で割っても、不等号の向きは変わらない:

仮定よりこの両辺は正。ゆえに、両辺を k 乗しても不等号の向きは変わらない。 □

命題6 z−1 以外の複素数、n1 以上の整数とすると:

この命題の直観的意味については、付録3参照。

証明 帰納法による。n = 1 のとき、与式は

となり、真。与式が n について真と仮定すると、

  1. (1 + z)n+1 = (1 + z)n × (1 + z)
  2. = {z[(1 + z)0 + (1 + z)1 + (1 + z)2 + … + (1 + z)n−1] + 1} × (1 + z)
  3. = z[(1 + z)1 + (1 + z)2 + (1 + z)3 + … + (1 + z)n] + (1 z)
  4. = z[(1 + z)0 + (1 + z)1 + (1 + z)2 + (1 + z)3 + … + (1 + z)n] + 1

となり、与式は n + 1 についても真。最後の式では、一つ前の式の末尾の zz[(1 + z)0] に等しいことを利用した。 □

スペース節約のため(思考を楽にするため)、例えば

のことを次のように略す。

この を総和記号という。この例では、指数が k = 0 の項から、指数が k = n − 1 の項まで、n 項にわたる足し算が行われる(k は整数)。

命題3の証明

補題 n ≥ 1 を整数とする。複素数 zn| z | < 1 を満たすなら:

補題の証明 仮定より次が成り立つ:

z ≠ −1 なので命題6から:

総和記号の範囲は以下同じ。この両辺の絶対値を考えると:

絶対値記号の性質から:

  1. = | z | | ∑ (1 + z)k |  ≤  | z | ∑ | (1 + z)k |
  2. = | z | ∑ (| 1 + z |)k  ≤  | z | ∑ (| 1 | + | z |)k = | z | ∑ (1 + | z |)k

| z | の値の条件 (D.1) から、上記最後の式に命題5を適用できる:

k の範囲は 0 以上なので、指数についても、命題5の条件が満たされている。

(D.3) 右辺の分数の分母について、x = −| z | と置くと (D.1) より x > −1 なので、命題4(ベルヌーイ不等式)を適用できる:

指数も、命題4の条件を満たす。

(D.3) 右辺において、分母を (D.4) の右端 1 − k| z | に置き換えても、不等号は維持される。

実際、(D.1) より、(D.3) の分母は正。この補題の仮定から 0 ≤ n| z | < 1 であり、しかも 0 ≤ k ≤ n − 1 なので、置き換えの後も分母は正。分子は 1 なので、分母の絶対値のみにより分数の大小が決まる。置き換えにより分母はもともとの値以下、分数はもともとの値以上になる。

すなわち:

(D.3*) の総和記号は、k = 0 から k = n − 1 まで n 項にわたる。n はどの k よりも大きいので、もし一つ一つの kn で置き換えれば、どの分母も元の分母以下になり(ただし正のまま)、どの分数も元の分数以上の大きさになる。つまり不等号が維持される。このような置き換えの結果は、同一の分数を n 個足し合わせたものなので:

(D.2) 以降の不等式により、(D.2) の左辺は (D.3**) の左辺以下。ゆえに:

証明終わり □

命題3 n を正の整数とする。複素数値の関数 f(n) lim n → ∞  nf(n) = 0 を満たすとき:

証明 z = f(n) と置く(z は複素数で、その値は n によって定まる)。仮定により、任意の ε > 0 に対して正の整数 N存在して、任意の整数 n ≥ N について n| z | < ε が成り立つ。ε = 1 のときの N を考えると、N 以上の全ての n に関して、補題により (D.5) が成立。以下、この範囲の n だけを考える。

n → ∞ とすると、仮定により | nf(n) | = n| z | → 0 なので、 (D.5) の右辺は  → 0/(1 − 0) = 0。すなわち (D.5) の左辺について:

一つ目の不等号は「絶対値は負ではない」ことから。二つ目の不等号は (D.5) から。ゆえに:

証明終わり □


この補題も Attila Máté による。これで命題1~3が全て示され、オイラーの公式の証明が完了した。

証明原文のベルヌーイ不等式は微妙に違うバージョンで、命題4で言うと k ≥ 1, x ≥ −1 に対するもの。(D.4) を導く瞬間 k = 0 の項を扱う必要があるため、そのバージョンだと、わずかなギャップが生じる。命題4の形(k ≥ 0, x > −1)は、それを避けたもの。この件について Máté 先生にメールで問い合わせたところ、「k = 0 の項については別に考えれば自明なので、問題ない。ベルヌーイ不等式については k = 0x = −1 かのどちらかを除外する必要があるが(両方認めると 00 が生じる)、前者のケースは自明。後者は(比較で言うと)それほど自明ではない。だから、前者を除外し後者を残す方が強い不等式になる。命題は一番強い形で書いた方がいい」という趣旨のご説明をいただいた。「この証明では x = −1 は必要ないが、だからといって、価値の低い k = 0 のために、価値の高い x ≥ −1x > −1 にしたくない」ということらしい。原文には k = 0 の場合についての脚注が追加された。

付録

付録1 オイラーの公式の別証明

Gilbert Strang: Calculus のオンライン版389ページにある別証明を紹介する。これも「無限級数を使わない」証明。「公式の左辺は (eix)′ = ieix を満たす。公式の右辺は同じ性質(微分するともともとの i 倍)を持つ。公式の両辺は初期値 x = 0 に対して一致する」ということに基づく。

このタイプの説明は、他の場所でも紹介されている()。長所として、簡潔で分かりやすい(無限級数を使わないので、収束に関する議論が必要ない)。短所として、複素関数の微分が導入されていない場合、定義すらされていない事柄を使うことになる。

任意の複素数は、その絶対値 r と偏角 θ を使って、次の形で書き表される(極形式)。

従って、実数 x が与えられたとき、もし eix という値が複素数の範囲で明確に定義されるとすれば、その複素数を

と書くことができる。ここで r = f(x)θ = g(x) の二つの値は、与えられた x に応じて(直接的には、複素数 eix の値[それが何かはまだ分からないが]に応じて)定まる。

(E.1) の左辺を x について微分して、結果に含まれる eix(E.1) 自身によって書き換えると:

  1. (eix)′ = ieix = ir(cos θ + i sin θ)
  2. = −r sin θi(r cos θ) ……… (E.2)

(E.1) の右辺を x について微分して、実部・虚部に分けると:

  1. r′(cos θ + i sin θ) + r(cos θ + i sin θ)′
  2. = r′(cos θ + i sin θ) + r[(−sin θ)θ′ + i (cos θ)θ′]
  3. = (r′ cos θ − rθ′ sin θ) + i(r′ sin θ + rθ′ cos θ) ……… (E.3)

(E.2)(E.3) は、等しいものを微分した結果なので、等しい。両者の実部・虚部はそれぞれ一致:

(E.4)r について解くと:

これを (E.5) に代入して、両辺を (cos θ) / r 倍すると:

  1. cos2 θ = sin2 θ (θ′ − 1) + θ′ cos2 θ
  2. cos2 θ = θ′ (sin2 θ + cos2 θ) − sin2 θ = θ′ − sin2 θ
  3. θ′ = cos2 θ + sin2 θ = 1 ……… (E.7)

(E.7)(E.6) に代入すると、r′ = 0。すなわち r′ = f′(x) = 0 であり、関数 r = f(x) は定数値を持つ。一方、(E.7) より θ′ = g′(x) = 1 であり、関数 θ = g(x)θ = x + C の形を持つ(C は定数)。

ところが x = 0 のとき eix = 1 であり、その絶対値は 1、偏角は 0。つまり x = 0 のとき r = 1, θ = 0。この条件が成り立つためには、関数が上記の形を持つことを考慮すると r = f(x) = 1 でなければならず、θ = g(x) = x でなければならない(定数 C = 0)。これらを (E.1) に代入すると:

オイラーの公式が得られた。□

付録2 怪しい挟み撃ち

lim θ → 0   sin θ θ = 1 について §2 で回りくどい証明をしたのは、以下のような問題を避けるため…。

命題1の「証明」 ラジアンを単位とする角 θ0 ≤ θ < π/2 を満たすとして、座標平面上で次の5点を考える。

画像 guc03-1.png: 内容は本文に記されている

小さい三角形 OTP の面積は (sin θ)/2AP を弧とする扇形 OAP の面積は θ/2大きい三角形 OAQ の面積は (tan θ)/2。小さい三角形は扇形の内側、扇形は大きい三角形の内側にある。従って、それらの面積について次が成り立つ:

  1. (sin θ)/2 ≤ θ/2 ≤ (tan θ)/2
  2. sin θ ≤ θ ≤ tan θ ……… (F.1)

θ = 0 の場合には等号が成り立ち、そのとき3種類の面積はどれも 0

θ ≠ 0 と仮定する。このとき sin θ > 0 なので、(F.1) の構成要素を全部 sin θ で割ることができ、その結果、不等号の向きは変わらない:

ところで角度 θ が負の場合にも、x-軸に対して上下鏡像になるだけで、三角形と扇形の包含関係に変化はない。−π/2 < θ ≤ 0 と仮定し、面積の正負を区別しないことにすると(面積の絶対値を考える):

この不等式の構成要素を全部、正の数 −sin θ で割ると、やはり (F.2) を得る。すなわち、(F.2)θ の正負にかかわらず真。

さて、両方のケースを合わせて 0 < | θ | < π/2 と仮定して、(F.2)θ→0 とすると cos θ→1 なので:

2個の不等号に挟まれた真ん中の極限値は 1 になるしかなく、その逆数の極限値も 1 になるしかない。 □


…この「証明」では、三角形の面積・扇形の面積の公式が、証明なしに使われている。面積が微積分によって定義され、その微積分に必要な三角関数の導関数が命題1を使って導かれるとするなら、ここで面積を使うことは循環論法になると思われる。(εδ) を使って、この「証明」を「厳密」に言い換えることもできるが、そういう問題ではない。

怪しい証明をするくらいなら、むしろ次のように言い切るのが一番納得できる!?

θ が無限小のとき、弧・弦・正弦の長さは一致する。だから次が成り立つ」

このうち、弧・弦の一致については「弧の長さは無限小の弦の長さの和」と定義しておく。弦・正弦の一致については「極限において弦は弧の接線なので、x-軸に垂直になり、正弦と同じ」と言い張る。標準的な意味での正しい証明ではないが、イメージははっきり浮かぶ。

付録3 命題6の直観的説明

z ≠ 0, −1 の場合、命題6を次のように言い換えることができる。

n = 4 として、次のように書く。

  1. A = (1 + z)0 = 1
  2. B = (1 + z)1 = 11z
  3. C = (1 + z)2 = 12z1z2
  4. D = (1 + z)3 = 13z3z21z3
  5. (1 + z)4 = 1 + 4z + 6z2 + 4z3 + 1z4
  6. X = [(1 + z)4 − 1]/z = 46z4z21z3

この場合、命題の意味は X = A + B + C + D だが、パスカル (Pascal) の三角形を眺めているだけで「そうなって当然」と思える。

        1
      1   1
    1   2   1
  1   3   3   1
1   4   6   4   1

例えば X の1次の係数 6 は、左親 3 と右親 3 の和。左親に印をしてから、右親のルーツを調べると、それは(右親自身の)左親 2 と右親 1 による。再び(その)左親に印をしてから、右親のルーツを調べると、それは(その右親自身の)左親 1 だけで、他に親はない。この左親にも印をする。それで全てなので、結局 6 は、自分の左親 3 から始めて、右上・右上とさかのぼったときの、数字の和。これは、A, B, C, D の1次の係数の和に他ならない(A においては1次の係数はゼロ)。X のそれ以外の係数も全て同様。同じことは、n = 4 に限らず一般的に成り立つ。

こんな「たわいもない」ことを源流に命題3が生じ、それを命題1・命題2と組み合わせると、オイラーの公式が生じる!

付録4 極限値の定義と性質

ある人が「0.999999… の極限は 1。限りなく近づくから極限では等しい」と言い、別の人が「どこまでいっても差はゼロにならないから、その二つは等しくない」と言った場合、判断の基準がなければ、水掛け論になる。ましてやオイラーの公式では複素数も絡む。極限値の性質を(本文に必要な範囲で)明確にしておきたい。以下では εδ を正の実数(0 を含まない)とする。

1. θ を実数として、θ を含む式 F(θ) を考える。 lim θ → 0  F(θ) = L の定義は「任意の正の数 ε に対して、次の性質を持つ正の数 δ が存在する」ということ:

簡単に言えば…。「あんた値は L に限りなく近づくとか言ってるけど、そうは言っても、まさか誤差1億分の1未満までは近づけないでしょ」と疑う人がいた場合、それに対して「当社が指定する δ の範囲でご使用いただければ、誤差1億分の1未満を保証します」と答えられる。一般に「誤差を ε 未満にできるのか」と、どんな ε を持ち出された場合でも、必ずその ε の値に応じて「この δ なら大丈夫!」という範囲指定ができるなら、その状態のことを

と言う。同じことを

とも書き表す。

一般の場合(θ0 以外の数に近づくとき)の定義の式は少し違うが、0 に近づく場合については、上記のように表現できる。絶対値の部分は、複素数の絶対値(0 以上の実数)でも構わない。例えば F(θ) の値は複素数でもいい。

δ の値は ε の値に応じて変化してもいいが、どんな ε が来ても大丈夫なことを事前に証明できる必要がある。正の ε に対応できれば十分。ε = 0(誤差をゼロにしろ)という要求に対応する義務はない。F(0) の値そのものは(それが定義されるかどうかを含めて)、極限値の定義とは関係ない。

2. n を正の整数とする。n を含む式 F(n) を考える。 lim n → ∞  F(n) = L の定義は「任意の正の数 ε に対して、次の性質を持つ正の数 N が存在する」ということ:

3. θ を実数、f(θ) を複素数値の式、K, u を複素数とする(本文では K = i, u = 0 などの場合を考えている)。

が成り立つとする。このとき、もちろん

が成り立つが、それだけではなく、次も成り立つ(定数倍の極限は、極限の定数倍)。

証: 極限値の定義F(θ) = Kf(θ), L = Ku を当てはめると、(G.2) の意味は「任意の ε > 0 に対して、次の性質を持つ δ > 0 が存在する」ということ。

K = 0 ならこれは自明なので、K ≠ 0 の場合を考える。(G.1) が成り立つので、任意の ε1 > 0 に対して次の性質を持つ δ > 0 が存在。

右側の不等式の両辺を | K | 倍し、絶対値記号の性質を使うと:

任意の ε > 0 が与えられたとき、ε1 = ε / | K | と置き、それに対して存在が保証されている上記の δ を使うと、(G.4) により次が成り立つ。

すなわち、任意の ε > 0 に対して (G.3) を満たす δ > 0 が存在。 □

4. 同様に f(θ), g(θ) を複素数値の式として、

が成り立つとする。このとき、次が成り立つ(和の極限は、極限の和)。

証: 任意の正の数 ε が与えられたとする。(G.5) が成り立つので、任意の正の数…例えば ε/2 に対して、次の性質を持つ正の数 δ1, δ2 が存在。

δ1, δ2 のうち大きくない方を δ とすると、0 < | θ | < δ の範囲の θ について、上記両方の右側の不等式が成立。それらを辺々足し合わせると:

絶対値記号の性質から | f(θ) − u + g(θ) − v | ≤ | f(θ) − u | + | g(θ) − v | < ε なので:

すなわち、任意の ε > 0 に対し、δ > 0 が存在して上記を満たす。極限値の定義によれば、これは (G.6) を意味する。 □

5. K を複素数(実数でもいい)、f(n) を複素数値の式とする。 lim n → ∞  f(n) が存在するなら、次が成り立つ。

証明は 3. と同様。0 < | θ | < δ という範囲を指定する δ の存在の代わりに、N ≤ n という範囲を指定する N の存在を考えればいい。

複素数 α ≠ 0 について K =  1/α と置けば、1/α 倍(つまり α で割る計算)についても同じことが言える。

付記

文章にすると考えが整理され、自分の中で曖昧になっていることが見えてくる。別の記事の作成中、「オイラーの公式の厳密な扱いは難しい」と気付いた。あれこれ考える過程で、マーテー先生のノートと出会った。命題1についても、読む立場では気にならなかった事柄が、書く立場だと穴だらけに思えてくる。「三角関数を級数で定義すれば、ロピタルの定理を使える」と安易な結論に逃げ始めたとき、§2 の方法を知った。不思議なことに(別々に検索したのに)、その方法が記されたファイルの著者は、同じマーテー先生だった。「学ぶ準備ができたとき、師は現れる」というのは、本当だな…。

曇りなきオイラーの公式 微分を使わない直接証明 > 作成メモ・更新履歴

(参考文献)

*2 ハンガリー系の名前だが英語的な順序(Máté が姓)。


  1. 2018年12月31日: 「3次方程式と双曲線関数 ☆ 複素関数いじっちゃお」作成開始。オイラーの公式の扱いで悩んだ。
  2. 2019年1月10日: exp_x.pdf 入手。
  3. 2019年1月27日: この記事の作成開始。
  4. 2019年1月30日: sinxperx.pdf 入手。
  5. 2019年2月3日: アルファ版公開。
  6. 2019年2月5日: 付録4追加。
  7. 2019年2月6日: Máté 先生にメールで質問。
  8. 2019年2月10日: ベータ版公開。命題1の証明を掘り下げた。命題5を微妙に変えた。
  9. 2019年2月17日: 初版(v1)公開。
  10. 2019年2月18日: 付録4の表現の改善: (それが定義されるかどうかを含めて)「定義と関係ない」→「極限値の定義とは関係ない」
  11. 2019年2月20日: 命題5の証明の改善: (1 − x) で割る前の右辺は単に 1 でいいのに、それを無意味に (1 − x)/(1 − x) と書いていた。
  12. 2019年2月24日: 第2版(v2)。β = 1 + ix/n と置くことで、証明本体の表記を少し簡潔化。§1 の途中にあった注1を節の末尾に移動。その他、小さな編集(約10カ所)。
  13. 2019年3月3日: v3。別記事「−1 の 3/2 乗? オイラーの公式(その2)」を公開したのでリンク設定。それに合わせて表現を改善・調整(2カ所)。「注1」を「付記」に改名、新しい「注1」を追加。
  14. 2019年3月10日: 誤字修正。「誤差1億分の1未満を保障」→「誤差1億分の1未満を保証」
  15. 2019年3月11日: v4。小編集(2カ所)。三角関数を説明するリンクを追加。三角関数を知らない人がこの記事を読むわけないとも思えるが、「予備知識はないが、ちょっとしたヒントさえあれば全てを理解する子」は確実にいる。ものすごい偶然で、未来のラマヌジャンが読むかもしれない(笑)。
  16. 2019年3月13日: v5。
    1. 誤字修正。「F(θ) は極限値は L」→「F(θ) の極限値は L
    2. 可読性向上のため、その前後に改行(インデント)追加。

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